酸素欠乏に遭遇したら

(学内向けに記した資料ですが、一般公開します)
2013年の保安教育で質問のあった酸素欠乏に遭遇したときの対処について記します。

  1. 酸素欠乏への対策
  2. 万一への備え
  3. 二次災害を防ぐ

1. 酸素欠乏への対策

酸欠事故は日々様々な場所で発生していますが(事例集123)、液体窒素による事例は幸い少なく、死亡事故となると国内では1990年のNTT研究所1992年の北海道大学が最後となっています。そのためか現在のところ、大学で液体窒素を取り扱う実験室は労働安全衛生法施行令 別表第六に規定される酸素欠乏危険場所に含まれていません。

酸素欠乏危険場所に該当する場合、作業者に酸素欠乏に関する4時間以上特別教育受けさせるだけでなく、酸素欠乏危険作業主任者(12時間に及ぶ技能講習を修了)に現場を指揮・監督させ、酸素濃度を測定し、空気呼吸器を備えて適宜使用するなどの義務が生じます。(労働安全衛生規則も参照)

しかしそれ以外の場合でも、対策不要というわけでありません。例えば極低温センターでは保安教育を実施していますが、これは上記の労働安全衛生法ではなく高圧ガス保安法によるものです。また北大の事故を受けて1994年(平成6年)には人事院からの指導もありました。製品安全データシート(MSDS)販売店から提供されることもあります。

2. 万一への備え

さて、本学における液体窒素の使い方では、保安教育でお伝えしている約束事がよく理解され守られている限り(これは「万一」でなく通常の備えです)、酸素欠乏に遭遇することはないと考えられ、空気呼吸器等には触れていません。まず酸素欠乏が絶対起こらないようにすることが大切で、空気呼吸器を用意したから酸素欠乏も安心、などということは決してありません。事故は普段と違う何かがきっかけで起こります。いつも大丈夫だからと油断せず、万全の態勢をお願いいたします。

それでも、自分の実験室は酸欠の生じる可能性があると思われる方は、空気呼吸器等(作業場所によっては安全帯やロープ)を整備するだけでなく、講習会で使い方をマスターされるとよいでしょう。なおこの場合、呼吸器は救援者のためにあります。急性の酸欠は即効性ですから、身体に異変の生じた被災者が自ら呼吸器を装着する余裕はありません。もし液が溢れるなどの異常に気づき身の危険を感じた場合は、呼吸器に手を伸ばすより脱出するのが先決です。呼吸器の保管場所もよく考える必要があります。なお、前記NTTの事故では廊下にも室内にも呼吸器が備えてあったのに使用されず、死亡に至ってます。

そして念のため、粉塵用マスクはもちろんのこと、防毒マスクも窒素(酸素欠乏)には全く効果がありません。これは笑い話でなく、実際そうした誤りによる死亡事故も多いそうです。また簡易な避難用呼吸器についてはメイカーのFAQに以下のとおりありますので、ご注意申し上げます。

Q3.短時間作業なので避難用の空気呼吸器を使用しても良いですか?
A3.避難用空気呼吸器は避難専用ですので、避難用以外の用途で使用しないで下さい。

救命講習東部消防本部(千原・上原キャンパスへの出張講習可)、宜野湾市消防本部浦添市消防本部中城北中城消防本部など、及び日本赤十字社沖縄県支部で開催されています。心肺蘇生法は酸素欠乏に限らず、様々な場面で役に立つこともありますので、ぜひ定期的に受講されるとよいでしょう。

3. 二次災害を防ぐ

そして万が一、酸欠事故が起きてしまった場合、被災者の救出は一刻を争いますが、自分も巻き込まれないことが大切です。事故現場に遭遇しても絶対に慌てて飛び込んではいけません。外部から開けられる扉や窓を全て開放し、換気扇や送風機もあれば外部からできる範囲で活用して、換気を確保します。開いたハッチから流れ出るガスで酸欠になる事例もありますので、外部の通風もよくしてください。それと同時に手分けして、119番通報で救急車を呼び、関係者にも連絡をとります。

内部の安全が確認されるか、呼吸器を用いない限り、助けに入ることはできません。酸素濃度計を携行する場合は、センサーの反応にタイムラグがあることも留意願います。また、大阪大学で書かれた「酸素濃度計の設置における注意点」も参考にしてください。

現実に二次災害も多数起きています。いくつか事例集からピックアップしましたので、ご参照ください。